慢性疼痛のCBT研修

先日、慢性疼痛のための認知行動療法(CBT)の研修を受けました。縁があって勉強中です。

Zoomを使ったオンライン研修で、午前・午後と一日潰れるくらいの充実した内容でした。

200名近くもいる大勢のZoom会議など初めて参加したので新鮮でした。と言っても顔出しなどはする必要ないのでほぼ一方的に聴講する形でしたが、チャット欄にて講演者に多くの質問がなされていました。参加していた方々の職種は様々なようで、医師、理学療法士、作業療法士などコメディカル、歯科医などもいました。内訳は分かりませんでしたが、認知行動療法の研修であるにも関わらず心理師がマジョリティでは無かったような印象です。歯科医がそこに入ってきていることも興味深いですが、考えてみればなるほど“痛み”に直結している領域です。


驚いたのはこの一日研修が参加無料だったことで、なぜそんなことが可能かというと、ファイザー製薬の国際ファンドの支援を受けているからだそうです(!)。こんなところにもファイザーが。研修の事前に資料が送られてきたのですが、なにやら分厚いレターパックだと思ったらなんと認知行動療法の書籍が入っていました。これ、参加者全員に配布しているとはなかなかの予算だと思われました。

以上のようなことから、想像以上に慢性疼痛は多くの医療従事者から関心を集めているのだと感じました。


慢性疼痛【chronic pain】は、

「急性疾患の通常の経過あるいは創傷の治癒に要する妥当な時間を超えて持続する痛み」と定義されます。(wikipediaより)

例えば頭痛であったり腰痛であったり、痛みの部分は様々です。

誰でも大小様々な身体的痛みは経験します。弱いものであれば転倒して怪我をしたり、風を引いたときに頭痛がしたりということを一度も経験したことのない人はいません。

しかしそういった急性的な痛みはある程度の期間によって消失するもので、それによって心理的な悩みが発生することは少ないでしょう。痣が出来てしまった!これで人生お先真っ暗だ…と悩む人はおかしい。

一方で慢性的に続く痛みを抱えることは心理的な悩みに繋がりやすいです。なぜならそれによって長期間に渡って行動が制限されたり、そのことによって生活のコントロール感が持てなくなったり、自信を失っていくが往々にしてあるからです。この場合だと、人生お先真っ暗だと考えてもおかしくありません。


本来の痛みよりも過剰に苦悩していくということになり、ここに心理的支援の介入する余地があります。その介入法の一つとして認知行動療法が注目されているということです。

認知行動療法では《身体ー感情ー認知ー行動》という各要素から個人をアセスメントし、それぞれが交互に影響しあっているという見方がされるので、身体的な側面としての痛みによってどのような感情、認知、行動が生まれているかを探っていくことに適しています。そしてどの要素にアプローチしていくのが良いかを考えます。痛みを無くすことではなく、生活の工夫ができないかということを一緒に探っていきます。


もう一つに重要な観点として研修で取り上げられていたのは、全員が全員ではありませんが、中には痛みによって何かが免除されているという人がいるということです。痛みによるメリットが存在しているという見方です(これが本人には納得されにくいところのようですが)。

心理の世界では身体化あるいは行動化という言葉がたまに使われますが、心的な問題が身体症状として現れる人がいます。心という見えないものを身体症状として見える化することによって…端的に言ってしまえば、例えば仕事を休めるということです。このときこの人は痛みという仕方のないことによって働くことが免除されている。それは痛みが実はメリットとして存在しているということになるのです。だからといって、どうせ本当は痛くないのにと指摘することはできず、本当に実感としての痛みはある。そもそもそれを指摘することは介入として正しくないように思われます。最初からこのような穿った見方をするのではなく、アセスメントしていく際に片隅に置いておいたほうがよい視点なのかもしれません。その視点をどのように実際の支援に用いるのかはこれから知っていきたいと思うところです。

大人の痛みだけでなく、子どもの心身症と不登校の関係にも同じ視点が求められるようです。子どもは特に感情を言葉にすることが未発達なので、身体化・行動化しやすいと考えられます。胃が痛くて不登校になりがちな子どもに対してズル休みだと言うのではなく、その身体化・行動化の裏にどんな感情が隠れているのか想像せねばなりません。以前、心身症と繋がりの深い概念としてアレキシサイミアについて学んだことがありました。アレキシサイミアとは失感情症のことで、自分の感情を認識したり言語化することが困難なことを指します。おそらく、身体化としての痛みとの関連もあるのではないでしょうか。


ともかく「痛み」と心の問題は密接なつながりがあるのだということが分かりました。

慢性疼痛の治療の目標は、痛みがあったとしても私にはこんなことができると感じられるようになること、つまり生活のコントロール権を痛みではなく自分に取り戻すことと言えます。

認知行動療法など心へのアプローチが有効であるならば、臨床心理士・公認心理師が治療の一環に携わっていく余地は十分にあるフィールドと考えられます。しかし、研修でも言われていたのは、現実的な問題として未だ広まるのに時間がかかるだろうということでした。本当に効果があるのかというエビデンスベースの考え方、それを行うメリット、心理士が担当するメリットがあるかという見られ方が医療ではされるからです。つまりは診療報酬の問題です。やはりいつだってどの業界だって壁になるのはお金ですね。



そういえばペインクリニックという名を以前より見かけるようになった気もするので(いつから存在し始めたのか?)、おそらく“流行り”なのでしょう。“睡眠科”とか“不眠治療”の看板も増加傾向にあると小耳に挟みました。

長期的に見れば心理士のニーズが開拓されていくものと思われるので、学んでおいて損はないかなと思っています。少しずつ勉強していきたいです。



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