鍵を閉めて帰ること
仕事が溜まっているが、少しだけ休憩して。
職場の事務室のガラス製のドアは両扉の引き戸になっていて、
右のドアを開けるときはカギを右から左へ回す。
左のドアを開けるときはカギを左から右へ回す。
一番先に出勤したらこれをして、一日が始まる。
どっちからどっちへ回すのか別に覚える必要なんてないが、
なんとなく心の中で「外から内へ」と唱える。
帰るときは逆で、「内から外へ」カギをしめる。
心理療法という仕事は、話し手の心の内側を二人で覗いてみることである。
言葉を使うことが多いが、時には絵やイメージも用いて心の内側を表現してもらい、
それをなるべく想像力を使って受け取り、こちらの見え方を返す時もあれば返さないときもある。
心の内側を覗くというのは24時間はやらない方がいい。
人間は身体を服装で隠すのと同じように、心のほうも人それぞれ適応しやすいように防具をつけて、他人から透けて見えないように工夫しているはずだ。
心理療法という仕事は、防具をいったん外してもらうことでもあるので、
肩が軽くはなるがその分思わぬ攻撃も受けやすいということになる。
だからなるべく「その時間だけ」にしておくとよいし、なるべく同じ頻度にしたほうがよい。
しかし攻撃に耐えながら話を進めると、経験値も手に入るということにもなるかと思う。
誰に対しても同じ介入をするのは専門家とは言えないと思うが、
変化を狙うためには心の内側を覗いてみる作業は誰でもどこかで、少しは必要になると思う。
いつもそんな想像を持ちながら仕事をしているわけではないが、
「外から内へ」と、職場に入っていくとき、たまにそんなこと(この仕事が治療的であるという側面とリスキーであるという側面)を考える。
そして話を聴く側は安全なところにいながらにして聴いているわけではなく、
聴く側もまた時に防具を外し心を覗かねばならないときがある。
こちらもまた時に変化していく。それは楽しいことでもあり、疲れることでもある。
変化するということは職業にとっても人生にとっても大切なことであるが、
無理に変化しようとしていないか、変化させようとしていないか、
ということは自覚しておかなければならないように思う。
話を聴く方にとっても、24時間はやらない方がいい理由があって、
それを意識的に説明できることが心の専門家としてのポイントではないかと感じる。
だから、私自身もちゃんと「内から外へ」帰っていくイメージを持ってカギを締める必要があるように思う。
仕事が溜まっているが、家ではやらないでおこう。
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