私と双極性障害①~双極性障害とは何か~
ずっと書こうかどうか迷いながら、
でも言語化したい気持ちはあった事柄があります。
今こうして書き始めながらも迷いはあるのですが、とにかく書いてみたいと思います。
私は、「双極性障害」という病を患っています。
2年前にうつ病と診断され、その1年後に双極性障害と診断されました。
と、言えるようになるまで時間がかかりました。今はそう言える段階にあります。
私は現在、双極性障害について理解を深めるために本やインターネットで勉強しています。
その中で知ったこと、そして当時者としての立場から書くことにも何かしらの意義があることを信じて、
今回は書いてみようと思います。
この疾患について取り上げるのは今回が最初で最後になるかもしれませんし、
今後も触れるかどうかはわかりません。
ただ、今思っていることは今しか書けないような気がして、今書いているわけです。
まず、双極性障害とは何かということから始めねばなりません。
昔は「躁うつ病」と言われていた双極性障害は、
気分障害に分類される精神障害の一つです。
気分障害には、他に一般的によく知られている「うつ病」や、「気分変調性障害」、「気分循環性障害」、「季節性うつ病」、「非定型うつ病」(「新型うつ」「未熟型うつ」などと近年呼ばれているものと重なります)などがあります。
双極性障害とは、うつ状態と躁または軽躁状態を繰り返すもので、
簡単に言えば、気分が落ち込んでいる時期とテンションの高い時期が交互に訪れるものです。
「うつ」という言葉は一般的になりすぎているので説明を加えますが、
治療が必要になるような「うつ」の場合には気分の落ち込みという単なる精神的な症状のみならず、
ほぼ確実に身体的な症状、特に睡眠障害と食欲の減退(または亢進)が伴うようです。
反対に「躁」という言葉は「うつ」ほどには一般的に使われないかもしれません。
人によってその現れ方は異なりますが、
「自分は偉い」「なんでもできる」という根拠のない自信が高まったり、複数の考えが同時にいくつも浮かんでくるというようなことが体験されることがあります。
行動面では、開放的で横柄な態度になったり、ごく短い睡眠時間でも元気でいられる、普段よりも多弁になる、
活動の増加(例えば計画性のない買いあさり、性的無分別、投資)などが見られることがあり、
とにかく周りから見て「元気すぎる」状態ということが言えます。
この“うつ”と“躁”という二つの極を行き来するということで“双極性“(bipolar)という呼び名がついています。
そのためうつ状態のみが見られる、一般的に知れ渡る「うつ病」は、精神科医療では「単極性うつ病」と呼ばれたりもします。
ちなみに気分障害が診断されるときには、
うつ病は少なくとも2週間、躁は1週間、軽躁は4日間以上続くという一応の基準がありますので、
一日の間に上がり下がりする一過性の気分とは質が異なります。
もし皆さんの周りに「最近うつで」という方がいらっしゃったら、
睡眠、食欲、身体面の変化と合わせて、それがどのくらいの期間持続しているか訊いてみると一つの目安になるでしょう。
双極性障害のうつ・躁または軽躁それぞれの期間は患者さんによって個人差があります。
特に、1年に4回以上、うつ、躁または軽躁、混合状態(うつと躁が入り混じった状態)が交代するような場合を、ラピッドサイクラー(急速交代型)と言い、
適切な治療を受けないと、このラピッドサイクラーになってしまい極めて不安定な生活を送る危険性が高まると言われています。
うつ、躁または軽躁の期間は、I型とⅡ型との間においても違いが見られるようですが、
両者に共通して言えることは、圧倒的にうつ状態の期間のほうが長いということです。
下図を見てみると、
Ⅱ型の人に至っては、13.4年追跡調査した期間のうち、軽躁状態であった期間は全体の1.3%しか無かったのに対し、うつ状態の期間は50.3%となっています。
(日本うつ病学会 双極性障害委員会「双極性障害(躁うつ病)と付き合うために」より引用)
「躁うつ病」という言葉から、躁とうつを“半分ずつ”繰り返すとイメージされることもあるかと思いますが、実際には、罹患してからの人生の3割から半分程度はうつ状態で過ごし、躁や軽躁はごく短い期間に現れるに過ぎないことが示唆されます。
※もちろん個人差があり、治療を受け再発を予防することによって寛解期が長く続いていらっしゃる方もいます。
患者さんにとっては、うつの症状の方が辛く苦しく感じられ、
うつ状態の時に受診することが多いため、最初は「うつ病」と診断されることが多いのもこの疾患の特徴です。
精神科医から見ても、<うつ病の人のうつ状態>と<双極性障害の人のうつ状態>を最初から見分けることは難しいといいます。
うつ病も双極性障害も同じ気分障害ではありますが、
実は治療方針も使われる薬も全く違いますので、治療者は慎重に見極めていく必要があります。
双極性障害は統合失調症と合わせて古くから二大精神病と呼ばれ、
どちらも生涯有病率は1%くらいで、報告によってばらつきはありますが、およそ100人に1人の割合で皆さんの周りにもいるといえます。
うつ病に比べ平均発症年齢が若いこと(20代半ばなど)もこの2疾患の特徴です。
また、うつ病は女性が男性の2倍多いですが、双極性障害・統合失調症に関しては性差が見られません。
うつ病、双極性障害、統合失調症という精神科が扱う代表的なこれらの疾患のメカニズムに関してはまだ解明されていないことも多く、現在も研究がされていますが、
モノアミンと呼ばれる脳内の神経伝達物質(具体的にはセロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン等)の異常がどうやら起きているということが分かってきました。
ですから、神経伝達の仕組みに働きかける薬(抗うつ剤や抗精神病薬)がよく効きます。
イメージとしては、
セロトニンの足りていないうつ病患者には、セロトニンを増やす薬を、
ドパミンの出すぎている統合失調症患者には、ドパミンを抑える薬を、という大体の理解でよいかと思います。
双極性障害には、気分安定薬や抗精神病薬という薬を用いて、気分の波を小さくしてうつと躁を予防する治療がなされます。
つまりこれらは、「こころの病」というよりは脳の器質的な病です。
もちろん器質的な疾患がベースにあって、その上でパーソナリティ(性格)の問題が併存していることもあります。
逆に器質的には問題がなくてもパーソナリティや発達の問題からうつや躁のような症状が現れることだってあるので、それは本当に個人差があります。
話がそれますが、個人的には、「こころ」というのは一体人間のどこにあるのかよくわからないので、安易に人のことを「こころの病」というのは良い気がしません。
脳の機能異常だったり、性格の偏りだったり、発達上の問題だったりの側面を切り取って、
人は「こころ」とか「精神」とか表現しますが、
言われた方としてはあたかも人として否定されたような感じを受ける可能性があります。
「こころ」とは、それ自体は綺麗な言葉でもありますが、使われ方によってはその人全体を傷つけてしまうインパクトを持った言葉なのだと思っています。
さて、双極性障害の基本的な説明だけでかなり長文になってしまいました。
ここからは、私自身の話をします。
Ⅰ型かⅡ型か、明確に医師から聞いたことはないのですが、
躁状態と呼ばれるようなエピソードはこれまでに無いため、Ⅱ型に分類されるのでしょう。
現在はクエチアピンという薬を毎日飲んで、気分を安定させています。
うつ状態と軽躁状態の期間の間で、どちらの症状もない期間があり、これを「寛解期」といいますが、
私の主観ではこの半年、少なくとも4ヶ月くらいは寛解期が続いており、だいぶ安定した気分で推移しています。
私は高校を卒業したあたりからずっと、慢性的な気分の落ち込みに苦しんできた記憶はありますが、1年前に双極性障害と診断を受けるそのときまで、自分の軽躁的な側面をあえて意識することはありませんでした。
今思い返せば、急にエネルギッシュになり何かに取り組んで睡眠時間を気にしなくなったり、とりとめもなくアイデアが頭に浮かんでくる、根拠のない自信が湧いてくるなど、軽躁の症状と似たようなことは20歳前後からありました。
それらのことを自分としては病的だと思ったことはなく、
むしろそのエネルギーが、大学での卒業研究など創作的なことに注がれたり、
自分にとっては良い意味で作用していたこともあったように思います。
そもそも気分の変動というのは、
気分障害と診断されない人でも、人間なら誰にもあることで(動物にだってあります)、
気分が良い状態や多幸感を感じれば、人はそれを維持したいと思うのが普通でしょう。
しかし双極性障害の患者さんの中にはうつ病の患者さんと同程度のうつ症状により社会生活に支障をきたしたり、加えて躁・軽躁状態の時に社会的な損失(例:色んな事業に手をだしてしまう、浪費、性的逸脱、それらの影響を含む対人関係の悪化など)を被ってしまう方が大勢おられます。
そして双極性障害の患者さんの特徴としてよく指摘されるのは、
躁や軽躁状態の時の自分を「調子がよい」「これが本来の自分」と思うことで、
「もううつは治った」と言い出したりすることです。
つまり、“病識”(自分は病気であるという認識)を持つのが難しい疾患であるということがあり、
これが治療を妨げる大きな要因となりえます。
ですから、「気分の変動は人間ならふつうのこと」と思うことは時に助けにもなりますが、その気分の変動が大きくその人の生活や人生に支障をきたす場合には、
それが「ふつう」の範疇なのか、症状からくるものなのかに気づくことも重要であり、
自分や周りの人に害にならないようにコントロールしていく必要がでてきます。
詳細は割愛しますが、
私は2年前にあるストレスフルな状況がおそらく引き金となって重いうつ状態になり、
うつ病と診断を受けた後、休養を経て復職後も薬物療法で治療を続けていたのですが、
1年前の夏、“躁転“と呼ばれる現象が起こりました。
原因はおそらく、抗うつ剤のみの服用に変えたことによるものであったのではないかと推測されます。
(括弧内、具体的な薬の話なので興味がない方はとばしてください。
当時、病院を転々としており、そのときの主治医の方針でジプレキサという抗精神病薬をやめ、レクサプロという抗うつ剤と漢方薬のみの服用に変わったのでした。
“躁転”とは、うつ状態や寛解状態から急に躁状態になることを言うのですが、
人によっては、抗うつ剤の「気分を持ち上げる作用」によって気分が上がりすぎることがあるのです。
これは抗うつ剤に躁転という副作用があるわけではなく、潜在的な双極性障害のある、双極性障害になりやすい体質を持っている患者さんだけが、抗うつ薬を飲んで躁転してしまう、と考えられています。
(引用:加藤忠志著『双極性障害 第2版ー双極症Ⅰ型・Ⅱ型への対処と治療ー』)
私は学部時代から臨床心理学を学んでいたこともあり、双極性障害に関する知識がたまたまあったため、
自ら当時の医師に「躁転したと思う」と告げたことにより、診断の見直しがなされました。
気づいたきっかけは、私を昔からよく知っている友人から「おまえ、うつじゃなくて躁鬱なんじゃね?」と冗談交じりの一言があり、その場では笑って流したのですが、
その後、軽躁が落ち着いてきた時に真剣に考えざるを得なくなったのでした。
自ら躁のエピソードについて語るということは、むしろ珍しいことと思われます。
双極性障害の患者さんは、正しい診断を受けるまでに平均7.5年もかかっているというデータもありますが、それには双極性障害の患者さんがうつ状態に関することのみを診察で言う傾向があることが関係しているでしょう。
そもそも、先程グラフで見たとおり、躁状態の期間は人生全体からすればごく短い期間であるため、患者さんもそのような時期があったことを明確に覚えているとは限りません。
うつ病と診断されてから1年でこの診断名にたどり着いた私は、早い方なのかもしれません。
20歳前後から慢性的なうつ状態とたまにハイテンションや妙にエネルギッシュな時期があったことを考えれば、7年かかったとも言えますが、
とにかく20代のうちに正しい治療を受け、それを受け容れられるようになったのはむしろ幸運なことかなと考えることすら最近はあります。
受け容れられるようになった、と書きましたが、
診断されてから、今に至るまでの道のりは決して単純なものではありませんでした。
次の記事からは、私が双極性障害を「受け容れられるようになった」とひとまず言えるようになるまでの軌跡を書きたいと思います。
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