私と双極性障害⑤~書籍紹介~

はじめに

今回は、私が読んだ双極性障害に関する本を3冊紹介します。

双極性障害について“学ぶ”あるいは“知る”ための本です。


たまには情報提供的な記事でも書こうかと。


<コメント>欄に私が読んだ感想とおすすめするポイントを書きました。
また、患者本人、支援者(治療に携わる方)、周りの人(家族、友人、恋人など)それぞれへのおすすめ度を★の数で表しました。
興味のある方のご参考までに。


患者さんの中には文字を読むことすら苦痛な時期にある方もいるでしょうから、ご無理なさらず。

こういう本があるんだ、くらいで。


①双極性障害【第2版】ー双極症Ⅰ型・Ⅱ型への対処と治療

著者:加藤忠史

出版年:2019年

<コメント>
双極性障害について得られている医学的な知識や標準的な治療法について概観するためにはこれ一冊で必要十分な内容です。
具体的な薬の名前や脳科学、ゲノム研究の内容を解説している箇所があるので、そこに関しては少し読みづらいかもしれません。
著者は日本うつ病学会の双極性障害委員会の委員長を務められており、双極性障害の研究を牽引してこられた方です。
第1版の発売から10年を経て改訂され、2019年現在の最新の知識が得られる内容となっています。
後半はQ&A形式をとっており、患者や家族が抱きやすい疑問にも客観的で専門的な立場からの回答が得られる形になっています。
サブタイトルが「双極症」となっているのですが、これはWHO(世界保健機構)の最新版の診断基準の日本語訳で「双極性障害」から「双極症」と名が変わったことに準拠してのことです。今後、現場でこの呼び名が浸透していくかは分かりませんが、
統合失調症がかつては「精神分裂病」であったように、病名の変遷には、その病名が持つ重みや偏見の受けやすさへの配慮の試行錯誤が反映されています。
「症」というのはやまいだれに「正しい」と書くので、「病」や「障害」とはまた違ったイメージを持ちます。
そのあたりのことが本書の冒頭に書かれており、非常に勉強になりました。

<おすすめ度>

・患者本人 ★★★

・支援者  ★★★★

・周りの人 ★★★★



②対人関係療法でなおす双極性障害

著者:水島広子
出版年:2010年

<コメント>
対人関係療法は、日本ではまだ本格的に受けられる施設が多いとは言えないようですが、そのエッセンスを知るだけでも患者や周りの方に役立つかもしれません。
著者は対人関係療法で高名な臨床家で、他のあらゆる疾患についても「対人関係療法でなおす」シリーズを書かれています。
双極性障害は対人関係療法に社会リズム療法を加えた「対人関係・社会リズム療法(IPSRT)」が有効とされ、対人関係の問題の整理だけでなく、患者本人の睡眠や人と接する時刻や刺激を記録していくことの価値が本書では書かれています。
実際に私も睡眠や他者から受ける刺激が、相当、直接的に気分の変動に関係していることが最近分かってきました。
双極性障害の治療は第一に薬物療法が考えられますが、薬物療法を安定して受け続けるためには、それを受け入れるための精神的プロセスや生活の安定が必要です。
そしてその難しさや、患者や家族にしか分かりがたい葛藤についても丁寧に書かれており、
むしろその部分が私には好印象でした。
治療者が実践するにはこの一冊ではあくまで入門的であり、また、「うつ」に対する対人関係療法の考え方については「対人関係療法でなおすうつ病」など他の書籍を参照する必要があります。
患者本人と、患者と関係性の強い周りの方には特におすすめです。

<おすすめ度>
・患者本人 ★★★★
・支援者  ★★
・周りの方 ★★★★

③バイポーラーワークブック 第2版

著者:モニカ・ラミレツ・バスコ
訳者:野村総一郎
発売年:2016年

<コメント>
著者はアメリカで認知行動療法の権威として知られており、本書も全体的に認知行動療法の視点から書かれています。認知や行動のパターンに気づいたり症状に振り回されないための具体的な方法が、難しい用語を使わずに提示されています。
何人かの登場人物の事例とともに説明されているので分かりやすいです。同じ双極性障害でも症状の出方のパターンや障害受容の段階は一人一人違うものですので、
何人かの登場人物から自分に近い人をモデルとして見つけることができればより参考になるかと思います。
著者はアメリカの臨床家なので、事例の中には当然日本人には馴染まないものもありますが、日本人の日常生活にも置き換え可能なものばかりですので私は気になりませんでした。
ボリューム感のある本ですが、無理にすべてに取り組む必要はなく、自分に合った、必要だと思うワークだけ取り組むか、

掲載されているワークシートを参考にして自分なりにエクセルなどで作り変えてみることもありだと思います。


<おすすめ度>
・患者本人 ★★★★
・支援者  ★★★
・周りの人 ★



あとがき


精神医学的な立場から言えば、

双極性障害の治療の現在のスタンダードは、


第一に薬物療法。

プラス、心理教育や心理療法とのことです。


心理教育(psycho-education)とは・・・

「心理教育とは疾病についての知識を,患者,家族と治療者が共有することと,支持的援助及び対処技能の増大をはかることで,患者本人の不適切な行動や家族の対応のうちストレッサーとなるものを減少させることにより再発を予防しようとするアプローチ」


引用:後藤雅博(2012)「家族心理教育から地域精神保健福祉まで」金剛出版


双極性障害は、精神疾患の中でも病識を持ちづらい疾患でもあるので、

病についての知識を得るというプロセスは重要かと思います。

私は精神医学を学ぶ立場にあるので、いわば“セルフ心理教育”しました(笑)

ただ、その人がいま直面したくないことを直面させるのは、

心理教育とは言えず、配慮のない押し付けになりかねません。

私がこのように病について勉強し始めたのは、水島広子先生の表現で言うところの「悲哀のプロセス」を経た後です。

病状の経過を見て今その患者がどんな段階にいるのか、

その患者のペースを尊重するのが何より大事だと思っています。


続いて心理療法ですが、

心理療法というと「カウンセリング」を連想する方もいるかもしれませんが、

カウンセラーはただ話を聴くだけでもなく、心理的な支援には色んな立場、理論、技法があります。

その中で双極性障害に関しては、

認知行動療法(CBT)と対人関係・社会リズム療法(IPSRT)が特に有効とされています。

勿論、患者によって合う・合わないはあると思われます。

残念ながら我が国ではまだ、どこの病院やクリニックでもこういった心理療法を受けられるというような環境にはありませんが、

特に認知行動療法は一般の方にも読みやすい本やサイトなんかもありますので、

興味のある方は調べてみてください。


私はというと、あまり認知行動療法が今のところなじまず、

むしろ対人関係・社会リズム療法の中の、

<他者から受ける刺激>に注意するというのがしっくりきました。


色んな本があったり情報やアドバイスを受けるとかえって混乱するということもありますので、

自分に合ったものを取り入れるという心持ちでも良いのではと思います。


今回の記事は当事者というより支援者目線よりで書きました。

知識を得ることや治療を受けることはあくまで手段です。

以上、今回は情報提供でした。

選ぶ権利は患者にあることをお忘れなく。

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